MSダンパーの計算書を読む(耐震設計について その⑤)

 

こんにちは。Larkです。

本日も耐震について書いていきます。これまでの記事では

その① 基本となる地震力の確認

その② 壁量計算の確認

その③ 壁量バランスの確認(層間変位・剛心・偏心)

その④ 限界耐力計算の触り

を書いてきました。今回はその④に相当するウィザースホームのMSダンパーの計算書を具体的に見ていきます。

最初に受領した報告書。

ダンパー設置計算結果 一般診断法

ダンパー効果 限界耐力計算レポート

『総評』

衰定数とは、数値が高いほど揺れを早く抑えることを意味しています。
目安としては、S 造の場合 0.03、RC 造の場合 0.05 程度です。
構造が固いと揺れはなかなか収まりません。
木造住宅はしなやかさがあり、もともと揺れを抑えやすい構造ですが、
制震装置 MS ダンパーを設置する事により、現状『0.12』から『0.17』に改善し、
さらに揺れを早く抑え建物への負担を軽減します。
加速度低減率は、100%の地震エネルギーを受けた時の数値が『1.00』です。
現状の『0.69』とは 69%の地震エネルギーを受けている事になりますので、
木造住宅は吸収性があり、もともと地震エネルギーを 31%低減しています。
制震装置 MS ダンパーを設置する事により『0.56』に改善し、
建物に伝わる地震のエネルギーを 44%低減する結果になります。

減衰定数hが「0.12→0.17:△0.05」向上し、加速度低減率が「31%⇒44%(△13%)」増加できた。また必要耐力にたいして約2倍の保有耐力と報告を受けました。大地震のケースでは倒壊はしないけど結構降伏点超えて損傷しそうです。因みに上の保有耐力の結果資料の右上には「ホームズ君耐震診断Pro Ver.4.4.0.1(2012年改訂版)」とありましたので保有水平耐力計算はホームズ君で計算している様です。

いやいや、これで満足できる施主ではありません。詳細資料を請求して中身を確認していきます。

基本的には前回記事の限界耐力計算のフローに沿ってチェックしていきます。

shinshin-msi-thanks.hatenablog.com

①各層の骨格曲線と安全限界時荷重・層間変位を算出する。

これ(崩壊時の変形量)を算出するには骨格曲線の概念の理解が必要となりそうです。これは縦軸:荷重、横軸:変位の関係 (厳密には違いそうですがエネルギー曲線、応力歪線図みたいに勝手解釈しています)を作成します。

各壁種に応じた変形と強度の関係

壁基材の骨格曲線(スケルトンカーブ)

壁材と構成(開口他低減係数)に応じて、各階のスケルトンカーブを算出。

やっている事はシンプルに壁材毎の強度・変形バランスに偏心率補正と開口補正を入れて壁長さで足しているだけですね。

結果は以下でした。

ケルトンカーブ

ここに構造計算同様に、地震力をぶつける訳ですが、降伏するしないの議論では無いので0.2・0.3掛けではなくそのままAi×支持荷重WiでPiを算出し限界耐力を算出します。これにより、限界時の層間変位(我が家1FX方向:112mm)が求まりました。

外力
②代表変位から安全固有周期を算出する。

安全限界固有周期

安全限界固有周

単純に1質点のばねの有周期(力・質量とばね変位がきまった≒ばね剛性が決まった から 固有周期 2π√m/kを算出)から安全限界固有周期が算出されました。

初期の固有周期を0.2とみていた所から、損傷が進み崩壊時には固有周期が0.73まで増加(緩々の状態に移ってしまう)という意味ですね。

③建築物に作用する加速度(地震力Psi)を加速度応答スペクトルに安全限界固有周期と地盤増幅率、加速度低減率を加味して算出する。

各階に加わる地震

ここのあたりは前回記事でも紹介しましたが、構造計算書の中ではなかった要素ですね。加速度低減率Fhは減衰効果が反映されますし、表層地盤の増幅率は地盤影響をちゃんと加算しています。これにより無事に、各階に作用する地震力が算出されました。

なお加速度低減率の算出は以下です。

加速度低減率

最初の報告書の結論が出てきました。減衰率を担保しているのは減衰定数0.22のダンパーと意外に大きい石膏ボード0.11とノボパン0.13のエネルギーがそこそこあるという事です。

壁量が耐力&降伏強度を上げる意味で、耐震等級3を取りましょう!地震がきても住める家にしましょう を理解していましたが、その先の損傷までの吸収Egについても耐力壁が頑張って壊れながら吸収し耐えるEgがそこそこ大きい事に気づきました。(壁量の重要さを改めて理解)

ダンパーが無くても、減衰定数0.12m、加速度低減率が0.69というのはノボパンがだいぶ頑張ってくれている、とこう理解した訳です。いや意外でした。

ただ、ノボパンは壊れながらの塑性Egに対し、ダンパーは繰り返し作用される吸収Egにつき、壁を壊さずに躯体を維持させる意味合いでやはり設置の重要性が理解できます。

ダンパーのEgが小さいように見えるのですが、ダンパーの抵抗力は普通速度≒加振振動数に依存するのでこの骨格曲線の前提は???と思いメーカーさんへ詳細を質問していく予定です。

一方で、たとえ大地震が来ても、壁を太宗壊すつもりもないので、効率的なダンパーの配置や壁バランスの工夫、調整をする必要があると感じているわけですが、ここら辺はこの計算書では確認できなかったため、確認の上で必要に応じて記事にしていきます。加えて、我が家でチャレンジしたさらなる耐震強化手段の内容は別途改めて記事にします。

最後に、改めて『構造計算では確認できない「保有水平耐力・限界耐力計算」についてMSダンパーを設置すると確認できる』点はダンパー設置効果+αとして個人的に良かったオプションと感じています。ウィザースホームの「MSダンパー」、地震大国日本においては……お勧めです。

 

長くなりましたが本日は以上です。