「落葉のメカニズム」から植物の完成された精巧なプロセスと半年の「葉」の頑張りを知る

落葉

こんにちは、Larkです。

本日は、落葉のメカニズムについて紹介します。そんなの興味ないよ!という人が大半かもしれませんが、物のことわり「理」が気になる私としては、ちゃんと理解しないと気が済まない質であります。落葉なんて掃除が面倒とか人の立場の物の見方ではなく、たまには木の立場になって考えてあげる事もあっても良いのではないか?なんて思う今日この頃です。

落葉の目的

そもそも木が葉をつけるのは太陽の光のエネルギー(以後Eg)を使って葉っぱの部分で光合成をしている事は理科で学んでいます。他にも気孔を使って水分調整をしたり光合成に必要なCO2を取り入れたりしています。根で吸収した水分を葉っぱに供給し「無機炭素から有機化合物を合成する」とんでもないプロセスを自然と平然とやってのける凄いやつなわけです。

光合成


葉が緑色であるのも光を取り入れる葉緑体の中にアンテナとなる多量のクロロフィル少量のカロテノイドが存在しており、このクロロフィルが青色波長と赤色波長の光Egをたくさん吸収するから緑と認識します。そしてこのEgをもとに有機合成の反応を進めているわけです。


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因みに、このクロロフィルは上記動画(16:00付近)の構造式をみて頂ければわかる様に錯体形成に重要なNと中心金属(イオン)としてMgが使われることから窒素分とMgが養分として必要になる意味が分かりますね。

研究内容│名古屋大学 植物生理学グループ (nagoya-u.ac.jp)

一方で、気孔の穴がある以上、開閉操作をして乾燥耐性を維持しようとするものの、住宅の気密の問題と同じで開口部を設ける以上、乾燥外気との境界を生じてしまう訳です。寒く乾燥する冬場は日照時間が短い上に、折角根で吸収した水分を逆に奪われて(失って)しまうリスクがあるわけです。加えて水分中に溶解しているガスは冷えて溶解度が低下すると、溶け切れなくなり水分の通り道である導管内で吐き出され、気泡が発生してしまいます。これは導管の水の流れを遮断してしまいます。水道管に空気が入ってしまう様な状態です。これは植物としてはたまりません。

この様に厳しい冬を乗り切る為に植物は進化の過程で

1.成長速度を犠牲にしてでも葉を付け続ける

➔水の通り道である導管を小さくし、気泡の発生を抑制する。水分量(蒸散量)を抑えるので(日照量も少なく光合成もあまり出来ないので)葉を小さくしてもよく、針葉樹に。

2.成長速度を維持する為に、寒くなる前に葉を自ら分解、吸収し、葉っぱを落として、冬を耐える➔広葉樹⇒落葉樹に。

生存戦略をとったと思われます。

この様に葉は太陽Egに依存している訳ですが、日照が短く寒い冬の乾燥をどうやり過ごすかを考えた結果、これを敏感に察知し、落葉樹はもう一度芽を出し、葉を作り直す労力・コストを払ってでも、冬を乗り切る為にに自ら葉を落して生き存えている訳です。

植物ホルモンについて

植物を勉強する中で植物ホルモンの働きを知ることは物凄く面白く、植物って賢いなぁ〜と感心しっぱなしでした。

アブシジン酸

落葉に影響する植物ホルモンに「アブシジン酸」があります。アブシジン酸はある意味「耐環境ストレス応答」ホルモンで、乾燥ストレスを感じると、このアブシジン酸が増えて、そろそろ危ないねっと察知して休眠モードに入るのです。危険感知専用の監督者(笑)的な受け止め。

植物は休眠を想定して、葉の付根には離層という細胞壁の薄い小さな細胞群を用意しており、アブシジン酸は同じ植物ホルモンのエチレンを誘導して、エチレンがこの離層に作用するといわれています。

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エチレン

エチレンは果物を追熟する点でも有名ですが、繊維となるセルロースの分解酵素であるセルラーゼを活性にする様なので、果肉が熟々と柔らかくするのと同じ様に、離層部の繊維の分解に作用していくのも理解できます。また、エチレンは分解、劣化していっちゃうイメージですが、人の皮膚細胞のように、分離表層が剥き出しになっては困りますから、この離層部分ではしっかり細胞分裂能力がある細胞が活躍して分離層にしっかり細胞を作って蓋をして保護しているのです。

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オーキシン

アブシジンが器官脱離を誘導する特徴に対して、器官形成を誘導するホルモンにオーキシンがあります。植物の成長点や修復点を決める現場監督的な(笑)役割です。アブシジン酸と対照的な働きですね。樹形形成に大きく関わってくる頂芽優勢なんかはオーキシンが密接に関わっています。他にも避陰反応として他の葉で日影に入って日射を受けられなくなるとクロロフィルの吸収後の透過光は赤色光の比率が高くなる為、これを敏感に検知して葉でもオーキシンが形成され、生成されたオーキシンが葉軸に流れて光の当たる位置へ伸長させる様です。

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動けない植物の工夫や涙ぐましい努力に感動すら覚えます。この様に、茎頂部だけでなく、様々な部分でオーキシンが形成、蓄積する事が明らかになっている様なのですが、上記の様に葉でも形成される訳です。そこで日射取得が小さくなり、オーキシンの生成量が小さくなると成長ホルモンであるオーキシン濃度が低下し離層での分離反応が進み易くなると解釈しました。

更には、植物は賢くて、頑張って生成した葉のアミノ酸は落葉前に分解吸収するのです。この時にクロロフィルが付いていると幹がアミノ酸として吸収出来ないので光吸収装置であるクロロフィルを破壊していくのです。この時、同時に赤色のアントシアニンが形成され、緑色が抜けていき、赤色の紅葉が拝めるわけです。加えて、光合成装置を壊していく理由として、光合成で使い道が無くなる光Egが蓄積するとその電子は酸素と結びつき活性酸素となって悪影響(細胞自体を傷つけてしまうため)となる為、クロロフィルを分解していくと考えられている様です。(因みにカロテノイドは活性酸素をつくらない為、破壊しないみたいです)

加えて、落葉した葉は冬は断熱層として働き、土壌微生物により分解され腐葉土となり、また樹木の養分となってリサイクルされていく訳ですからとんでもない省エネプロセスな訳です。

成長する事に時間がかかりますが、太陽光パネルと化学プラントばりの有機合成プロセス、蓄電池のようなEg蓄積装置があの葉っぱ一枚、幹の中に同居していると考えるとそのプロセスの精巧さに感銘を覚えると同時に人工的なプラントの不甲斐なさを痛感します。

この様に紅葉を植物科学の視点で掘り下げるだけでも、植物が如何に緻密で完成されたプロセスであるかが垣間見える訳で、この記事を読んで今後紅葉をみる際に「半年間お疲れ様でした」と少しでも植物の頑張り「労って」もらえると、植物を見る目(見方)が変わるし何か心が少しでも豊かになる気がしませんでしょうか?

本日は以上です。